不動産業が中心になった「京阪」、門真との薄かった関係は深まるか

京阪門真市駅
企業の話題

京阪グループにとって門真はこれまで関心が高くないエリアだったといえます。しかし、今は「不動産業」を中心に据えた企業グループに変化しつつあるだけに、枚方のように門真にも京阪が注力していく機会は増えていく可能性があります。

110年以上続く京阪電鉄の歴史で、門真にもっとも“投資”したのは、1980年代初頭に行われた「高架複々線化」だったのではないでしょうか。

1978(昭和53)年から萱島、大和田、古川橋、門真市、西三荘の各駅が順次高架化され、さらには線路を4本敷いて、急行・特急などが通過する上下線路と、門真市内の各駅に停まる各駅停車・区間急行用の上下線路を分割。1982(昭和57)年に完成しました。

高架化によって各駅に“高架下商店街”が生まれた。写真は京阪の高架下商業施設「エル・シリーズ」として最初の1979(昭和54)年10月にオープンした「エル西三荘」

これにより、門真などの沿線人口がもっとも多かった1980年代にも余裕を持って列車を増発することができ、大阪中心部と北河内沿線間の活発な通勤・通学需要を担いました。また、高架下には「エル〇〇」と名付けた商店街を設け、各駅前の賑わいを創出しています。

複々線化以降、目立たぬ門真への投資

複々線化から40年ほどが経ち、この間には大阪モノレールの開業にともなう門真市駅のリニューアルはありましたが、京阪電鉄が門真に“積極投資”したケースは、それほど多く見られません。

2007(平成19)年以降に大和田駅から門真市駅の高架下にレンタル倉庫やコンビニを設けたり、大和田駅の高架下には傘下のスーパー「フレスト大和田店」(2007年9月開店、2010年10月閉店)をオープンさせたりしたことはありました。

近年は駅から離れた高架下の活用も積極的(古川橋~大和田間)

最近では2020(令和2)年11月に西三荘駅の近くにあったパナソニック所有の駐車場跡で、1階に商業施設「TOMO~NI(トモ~ニ)」などを置く低層のオフィスビル「京阪西三荘スクエア」(しかも所在地は市境の守口市橋波東之町なので、ぎりぎり門真ではない)を設けたことくらいでしょうか。

樟葉を含めた枚方市内の再開発や商業施設の大規模リニューアルなどにグループをあげて注力してきた京阪からすると、門真での動きはいかにも小規模に見えます。

門真周辺は人口減が進む成熟し尽くした沿線であり、再開発につなげるような「タネ地」も京阪が持っていない影響もあるのでしょうが、1980年代の複々線化を振り返ってみても枚方方面の利用者を迅速に京橋方面へ輸送するため、その支障となる門真市民(&土井~野江駅間の利用者)らが利用する列車を“本線上”から分離させたのでは、との邪推さえしてしまいます。

複々線の真中を走る準急・快速急行・特急などは大和田~西三荘間と土井~野江間の各駅にはホームがないので停まれない

複々線化によって門真市内の駅は本線(通過線)上から分離されたことで、長年にわたって門真市が訴え続ける「大阪モノレールとの乗換駅である門真市に準急か急行の停車を!」という要望が実現する気配は見えてきません

2008(平成20)年3月の「中之島線」開業の前後には、門真の各駅に停車する区間急行が昼間にも大増発されて一時的に利便性が高まりましたが、過大な期待を背負った中之島線が現実の厳しさに直面したことで、2011(平成23)年には各駅停車が中心の運行体制に戻っています。

今や売上の半分は不動産という企業に

京阪電鉄は、京阪電車を走らせている「鉄道会社」として、沿線に住む人なら誰でも知っていて、かつて小学生などからは「将来は京阪電車の運転手になる」などという目標を聞くケースも多くあり、沿線を代表する憧れの企業でしたが、近年の実態は鉄道を中心とした経営から変化しつつあります。

2016(平成28)年に「京阪ホールディングス(HD)」という形で持株会社化し、不動産や流通(スーパー・商業施設)、レジャー(ホテル・枚方パークほか)などの傘下会社を含めて京阪HDに“ぶら下がる”形の企業グループとなりました。

京阪グループは「運輸」「不動産」「流通」「レジャー・サービス」という4つの事業分野の約50企業で構成(京阪ホールディングスのグループ事業案内ページより)

それまでは京阪電鉄(京阪電気鉄道株式会社)という企業の傘下に「京阪電鉄不動産」や「京阪百貨店」、「ホテル京阪」といったグループ会社があったのですが、持株会社化により、電鉄も不動産も百貨店もHDの下に並列に置かれることになったわけです。

グループの祖業であって頂点に君臨していた鉄道部門の「京阪電鉄」も、売上比率で見ると2009(平成21)年以降は、「不動産部門」が鉄道などの「運輸部門」を上回る年度が多くなり、スーパーなどの「流通部門」が運輸部門を上回るケースも出ています。

新型コロナウイルス禍の影響が比較的少なかった2期前の「2020年3月期(2019年4月~2020年3月)」の決算における売上比率を見ると、

  • 不動産業:32.7%
  • 流通業:29.2%
  • 運輸業:27.7%
  • レジャー・サービス業:9.5%

となっており、鉄道などの運輸業は3番目の売上比率にとどまっています。

新型コロナ禍によってこの傾向はさらに高まっており、最新となる「2022年3月期(2021年4月~2022年3月)」の決算では、

  • 不動産業:49.8%
  • 運輸業:25.7%
  • 流通業:19.2%
  • レジャー・サービス業:4.2%

と、京阪HDの売上の半分を不動産部門が占めるようになり、利益の大半を不動産業が生み出す企業グループとなりました。

コロナ禍で不動産事業の売上比率はさらに上がった(2022年5月17日、京阪ホールディングス株式会社の2022年3月期「決算説明会資料」より)

鉄道やバスの運輸、スーパーをはじめとした流通、ホテルなどのレジャー事業は、新型コロナ禍で軒並み大きな影響を受けているとはいえ、すでに京阪が鉄道運営している不動産企業”となっていたことをあらためて感じさせる数字です。

古川橋に続く「再開発」に関与できるか

一方、不動産業が主力となった“京阪電鉄”と門真の関係を考えると、今後は深まってくる可能性があります。

たとえば、老朽化した古い住宅を再生する京阪電鉄不動産の「まちなかホーム事業」(2018年~)では、守口・門真で注力していく方針を明らかにしています。

また、古川橋駅の南口「幸福町・垣内町エリア」における大規模再開発は、住友不動産やミサワホームとともに京阪電鉄不動産が関与することが決まりました。

門真プラザは1973(昭和48)年に完成した「イズミヤ」などの商業施設・店舗と市営住宅などからなる大型複合施設で、まもなく築半世紀を迎える

今後、再開発が取り沙汰される門真市駅前の「門真プラザ」は、市の第三セクターである「門真都市開発ビル株式会社」という会社が管理・運営しており、ここには京阪グループが関与していないようですが、“筆頭株主”は門真市であり、その他の株主は「パナソニック・銀行・イズミヤ」とのことですので、京阪電鉄不動産と競合する可能性は低そうです。

古川橋駅に続き、門真市駅前の再開発京阪グループが関わるようなことになれば、門真市の側も「モノレールも延伸することだし、そろそろ門真市駅に準急くらいは停めてもらいましょうか」と強気に出られるようになり、京阪に優等列車の停車を本気で検討させるフェーズに持ち込めるのではないでしょうか。イズミヤではなく京阪百貨店系の商業施設でも新たにできれば可能性もより高まるでしょう。

ただ、その頃にはさらに鉄道の乗客が減って現在の運行本数さえも維持できなくなり、「寝屋川の人口も減っているので準急はすべて区間急行化する!」というような、京阪HDが言うところの“構造改革”が実行される懸念さえぬぐえない経営環境にあるのは、寂しいところです。

(2022年5月28日時点の内容です)