京阪電鉄が来年(2023年)4月から運賃に一律10円を上乗せする“値上げ”計画を発表しました。
これはホームドアやエレベーター設置といった「バリアフリー化」にかかる費用の一部をまかなうため、利用者から一律に負担を求めるものだといいます。そこで気にかかるのが萱島駅のバリアフリー化動向です。
今回の“値上げ”は、国が昨年2021年12月に創設した「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用したもので、大津線と男山ケーブル(鋼索線)を除く全駅を対象に普通運賃に一律10円、通勤定期券は1カ月あたり370円を加算するなどの内容。通学定期券は対象外なので、40歳以上になると強制加入させられる「介護保険」のような存在でしょうか。
今から20年以上前の2000(平成12)年11月に「交通バリアフリー法」が施行されたことを機に鉄道会社は駅や列車などのバリアフリー化が求められてきました。
その費用負担は、一部を行政が補助しながらも鉄道会社の企業努力に依るところが大きかったのですが、さらにバリアフリー化を加速させるためには「利用者から一律に負担を求めてもよい」と最近になって国が制度化したものです。
新型コロナウイルス禍で経営状態が悪化している鉄道会社としては、利用者に少しでも負担をしてもらいたいとの思いもあるとみられ、「鉄道駅バリアフリー料金制度」を使っての“値上げ申請”は、京阪電鉄だけでなく、Osaka Metro(大阪メトロ)や阪急電鉄、阪神電鉄と今年に入って相次いで行われています。
門真市側は「階段」だけの萱島駅
今、門真にある京阪の駅では、エレベータなどの設置もおおむね終わり、バリアフリー化としてはホームドアの設置を待つような段階になっているのですが、未だ課題として残されているのが萱島駅です。
寝屋川(河川)と二十箇用水(寝屋川に沿って流れる川のような広さを持つ昔の農業用水路、かつて門真市域の農家も使用)の上部に高架駅として設けられている萱島。
駅所在地は「寝屋川市萱島本町」となっていますが、大和田寄りの「西改札口」(うどん店「つうつう」やコンビニ「アンスリー」がある側)の出入口は「門真市上島町」に位置しています。
寝屋川市側の「東改札口」には駅前ロータリーが整備され、エレベーターも完備しているのですが、駅前広場も無く狭あいな門真市側の西改札口に行くと、どんと目の前に立ちはだかるのは13段の階段。
同じ西改札口の裏手(北側=寝屋川市下神田町側)にも出入口があって、こちらにはスロープも整備されているのですが、なぜか寝屋川市域からしか入れないような形状となっており、門真市側(高架下の「萱島駅駐輪センター」側)には、またも14段の階段がそびえています。
(※なお、改札内からホーム上までの上りエスカレータは設置されています)
寝屋川(河川)の堤防が築かれた寝屋川市側と比べ、門真市側の土地が低くなっているという地形的な事情に加え、市境が入り組んでいるから結果的にそうなってしまったのでしょうが、門真市民としては少し悲しい状況です。
また、萱島駅は寝屋川の上をまたいで建てられているという特殊な環境もあって、東口と西口はコンコース内でつながっていません。
エレベーターのある東口へ行くには、いったんホームに上がるか、改札外の橋を渡らなければ行き来ができないため、門真市民にはエレベーターがきわめて使いづらい構造となっています。
定期客は寝屋川・門真市民が拮抗
萱島駅の乗降人数は、2019(令和元)年のデータでは1日あたり2万7841人(令和2年度大阪府統計年鑑)だといいます。
このなかに占める寝屋川と門真の両市民の割合は分からないのですが、現時点で最新となっている「第12回大都市交通センサス(2015年実施)」のなかに参考となるデータがありました。
ここでは、萱島駅を初乗りとする「定期券」の利用者がどの地域からどうやって駅まで来たかという調査結果が載っており、母数とした5507人の居住地は、以下のようになっています。
- 寝屋川市:2,379人(43.2%)
- 門真市:2,274人(41.3%)
- 守口市:528人(9.6%)
- 不明:326人(5.9%)
あくまで「定期券」を使っている通勤・通学者のデータですが、寝屋川市民と門真市民が拮抗し、守口市民(主に大久保町や藤田町などの居住者)が“第三極”として一定数を記録しています。
2274人いた門真市民の萱島駅利用者の内訳を見ると、1083人が北巣本小学校エリア(上島町・北巣本町・下島町・城垣町・宮前町)で、1054人は四宮小学校エリア(岸和田・四宮など)となっていました。
ほぼ“旧四宮村”の市民が占める形ですが、朝日町や宮野町など“旧大和田村”エリアも137人います。
このうち、北巣本小エリアでは57%が自転車で駅へアクセスしており、四宮小エリアからは全員が自転車を使用。朝日町・宮野町方面も約7割が自転車でのアクセスとなっており、萱島駅へ徒歩で行く門真市民は少数でした。
一方、2379人の寝屋川市民を見てみると、駅から比較的近い「萱島東・萱島桜園町・萱島本町・萱島南町・南水苑町・木田元宮・下木田町など」からの利用が831人でトップ。
続いて「上神田・下神田町・中神田町・東神田町・御幸西町・御幸東町」も731人おり、「高柳・黒原エリア」からも606人と幅広い地域からの利用がみられました。
特に高柳・黒原エリア居住者ではバス利用者が75%超と突出して多く、京阪バス「50系統(黒原循環=旧「タウンくる」)」(萱島駅[東口]~神田保育園~高柳五郵便局前~黒原旭町西~萱島駅[東口])や「14系統」(京阪大和田駅~京阪萱島駅前[西口側]~高柳住宅前~寝屋川市駅)を利用している可能性があります。
“市境駅”は行政も手を出しづらい?
通勤・通学客では門真市民の利用がかなり多いという結果になっていた萱島駅ですが、実は定期券を持って日々電車に乗るような層にとって、西口にある13~14段の階段など大きな支障にはならないともいえます。
問題は昼間に買物や用事で萱島駅を使うような高齢者で、足腰が悪い人には13~14段の階段はなかなかつらいものがあります。車椅子やベビーカーでの利用も困難です。西口の裏(北側)へ回って寝屋川市側のスロープまでたどり着くのも一苦労ですし、二十箇用水と寝屋川の橋を渡って東口へ行くのもかなり遠回りです。
また、今は通勤で定期券を使っているような層でも数年から十年後くらいには、歩くのが辛くなるかもしれません。
もともと萱島の西口駅前は市境が入り組んでいて、西口駅前も「つうつう(うどん店)」や「松屋萱島店」は門真市ですが、目の前にあるコンビニの「アンスリー萱島店」は寝屋川市になっています。大きなクスノキと萱島神社も寝屋川市側です。
今は「川」にしか見えないかつての農業用水路「二十箇用水」が市の境となっているのですが、萱島駅前では水路の流れが過去に異なっていたためか、寝屋川市域が門真市側にせり出す形で市境が設定されています。
萱島駅を使っている寝屋川・門真・守口の3市市民にとって、普段はそれほど気にならないことかもしれませんが、行政上は厳密な「線引き」が行われているのです。
西口はぎりぎりの位置で門真市域であり、門真市民の利用も多いので市(市役所)は幾度も京阪電鉄に西口へのエレベータ設置を求め続けているようですが、なかなか実現には至りません。
一方、寝屋川市(市役所)では高齢者や身体障害者も調査・議論に参加して作成した「京阪萱島駅交通バリアフリー基本構想」という細かな方針案を2005(平成17)年1月に公表し、全60ページにわたって駅周辺の課題をまとめています。
そうした苦労を経て、翌2006(平成18)年12月には東口へのエレベータ新設につながりました。
ただ、この基本構想では、西口については門真市域にあるためか「放置自転車が多く、通行の障害になっている」「階段しかなく、不便である」など一般的な指摘にとどめており、どこか遠慮気味に見えます。
守口市との境にある西三荘駅(門真市元町)でも、“門真5駅”のなかではエレベータ設置が一番遅かったというあたりに市境駅の難しさが垣間見えてくるかのようです。
各市にとって「端」でもある市境駅は、後回しにされる存在なのかもしれません。行政間の“縄張り意識”や不可侵的な面もあるのでしょう。一方の事業者側も行政からの要望が多い場所から手を付けていくはずです。
萱島駅近くで都市計画道路を整備中
市境という難しさもある萱島駅ですが、西口の近くでは、バス通りでもある府道「木屋門真線」が都市計画道路「寝屋川大東線」として道幅を大幅に拡張する計画が大阪府によって着々と進められています。
駅西口から若干距離のある京阪バス・近鉄バスの「萱島」バス停(京阪バスのみ「京阪萱島駅前」の停留所名)の環境が改善されれば、萱島駅の乗り継ぎ利用者増につながる可能性もあるでしょうし、タクシーでのアクセスも増えるかもしれません。
京阪電鉄では、枚方公園や御殿山など地上にある駅を除いて各駅に最低1カ所のエレベータ設置は終わっています。
東西出入口の行き来が難しい萱島駅の特殊性を考えれば、2カ所目のエレベータ設置要望は無理難題ではないように思えます。
今回の「バリアフリー運賃」導入を機に門真側の萱島駅西口にもエレベータ設置が進むことを旧四宮村域の元市民として期待するとともに、あの密集した西口の駅前を何とかして……とこちらは門真・寝屋川の両市当局にお願いしたいところです。
(2022年8月18日時点の内容です)