巨大すぎるパナソニックの歩み、一体どこまでが「門真企業」か

西三荘駅近くに位置するパナソニックの西門真地区
企業の話題

門真といえば松下電器産業、今でいえば「パナソニック」が本社を置く街として知られ、この巨大家電メーカーが門真市に与えた影響の大きさは、創業者である松下幸之助さんが「門真市名誉市民」となっていることからも分かります。今、パナソニックと門真の関係はどのような状況にあるのでしょうか。

パナソニックは創業100年超となり、門真へ本社を置いてからも90年が経とうとしています。その間の歩みを簡単に振り返ってみましょう。

1918(大正7)年3月に現在の大阪市福島区大開(おおひらき)で家族3人によって創業した「松下電器(当初は松下電気)」は、15年ほどの間に自転車用ランプや家庭用アイロン、ラジオなどの製品を相次ぎヒットさせ、従業員数も1200人を突破。

さらなる事業拡大へ向け、拡張用地として目を付けたのが大阪の“郊外”で一面に田んぼが広がっていた当時の「門真村(一番村・二番村・三番村・四番村などの範囲)」でした。

門真と松下電器・パナソニックとの関りは90年近くにおよぶ(2018年4月号「広報かどま」より)

1933(昭和8)年には、現在の西三荘駅に近い位置(西三荘と門真市の中間にあった旧「門真駅」付近)に大規模な「本店・工場」を建設し、以降は門真から世界的な企業に飛躍していきます。

その後、門真村は門真町となり、周辺の大和田村、四宮村、二島村を加えながら1963(昭和38)年には人口6万6500人超に達して「門真市」が発足しています。

農業が主な産業だった門真が、高度経済成長の波に乗って松下電器が発展するとともに、市の人口も増え、「関連する工場や下請け企業が増加し、門真市はものづくりのまちとして大きく変化」(「門真市と松下幸之助のあゆみ」=2018年4月号「広報かどま」)していきました。

幸之助さん亡き後の「松下」が歩んだ苦難

門真から世界的企業に育った松下電器ですが、1989(平成元)年に創業者の幸之助さんが亡くなった後は、創業家と経営陣の確執めいたものが見られたり、2000年代初頭に業績悪化で大規模なリストラを実施したり、社をあげて注力していた「プラズマテレビ」が失速したりと良い話題を聞くことが少なくなりました。

2008年に「松下電器産業」から「パナソニック」に社名が変わった

2008(平成20)年には「松下電器産業」の社名を捨て、海外にもよく知られている「パナソニック」を冠した社名に統一。翌年には松下創業メンバーの1人だった井植歳男さん(幸之助氏の義弟)が戦後に築いた「三洋電機」を子会社化します。

三洋が持つ“乾電池エネループ”のような高い技術がパナソニックに加わることで成長への期待が高まったものの、逆に業績は下降線をたどり、2009(平成21)年3月の決算で約3800億円の赤字を計上し、翌2010(平成22)年3月期も1000億円超の赤字でした。

2009年3月期(2008年度)から2013年3月期(2012年度)にかけての5期は、うち4期で最終赤字となる厳しい決算だった(パナソニック「第106期・株主通信、2012年4月~2013年3月」より)

さらに、2012(平成24)年3月期には7700億円超、翌2013(平成25)年3月期にも7500億円超という大規模な赤字を2年連続で出してしまい、「もうパナソニックは終わった」といった言説も目立つようになっていたのが今から10年ほど前のことです。

この間には、“松下凋落”の現状を伝えるためか「城下町である門真もひどい状況だ」といった内容の記事もよく見かけ、門真市と松下の関係の深さを実感したものでした。

その後は2022年3月期までパナソニックは大きな赤字こそ出してはいませんが、売上が飛躍的に伸びるようなことはなく、経済メディアや投資家らからは「成長性に乏しい」「停滞している」といった評価を受け続けています。

今も売上7.4兆円、社員24万人の巨大企業

確かにパナソニックは、この20年ほどの間に飛躍的な成長は遂げていません。しかし、「売上高約7兆4000億円、社員数24万人超」という日本有数の巨大企業であることは間違いなく、門真市を代表する企業という位置付けも不変です。関西でパナソニックと肩を並べる規模の企業は見当たりません。

パナソニックが巨大企業であることは現在も変わらない(2022年6月時点で公開されている資料「一目でわかるパナソニック」より)

では現在、パナソニックと門真はどのような関係にあるのでしょうか。各事業会社が本社を置いている「場所」という面から見ていきます。

パナソニックは今年2022(令和4)年4月から持ち株会社制(現場を重視する同社は「事業会社制」と呼ぶ)を導入し、グループの経営を統括する「ホールディングス(持株会社)」と、実際に事業を行う「事業会社」を分割しています。

パナソニックのいう「事業会社制」は、門真へ本社を移した1933(昭和8)年を機に工場や部門ごとに経営感覚を持たせる“独立採算制”を導入して以来、同社の伝統的な経営手法となっており、近年は薄められて“中央集権”的な傾向も見られましたが、今年から再び事業会社制が強化される形となりました。

事業ごとの独立性を重視した企業風土もあって、パナソニックグループに所属する企業は日本を中心とした世界各国に532社(2022年3月現在)におよび、その全体像を把握するのは困難ですが、現時点では1つのホールディングス(持株会社)と8つの主要な事業会社が根幹を成しています。

グループを統括する「ホールディングス」のもと、核となる8つの事業会社に分けられる(パナソニックホールディングス、2022年4月1日「グループ戦略説明会」資料より)

まず、グループを統括する「パナソニック ホールディングス」の概要を見てみましょう。

持株会社

パナソニック ホールディングス株式会社

・連結対象会社数:532社(2022年3月)
・売上規模:7兆3,888億円(グループ全体)
・従業員数:24万3,540人(グループ全体)
・本社:門真市大字門真1006番地
(業務場所は守口市八雲中町3丁目1)

グループを統括するホールディングス(HD)が門真市内に本社(主な業務場所は隣接する守口市側ですが)があるので、「パナソニック=門真」という感覚は間違いではないでしょう。

ただ、実際に事業を担っている事業会社になると、門真に本社を置いている企業は減っています。パナソニックグループの核となる8社の企業概要は次の通りです。

パナソニックの主な事業会社(2022年4月時点)

(1)パナソニック株式会社【東京・汐留】

  • 事業内容:家電全般(主に一般消費者向け)
  • 売上規模:3兆6,476億円(2021年度)/従業員数:約8万8,000人(公式サイト)
  • 本社:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル

(2)パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社【横浜市】

  • 事業内容:車載システム、デバイス、ソフトウェア
  • 売上規模:1兆171億円(2020年度実績)/従業員数:約3万4,000人(2022年3月末)
  • 本社:横浜市都筑(つづき)区池辺(いこのべ)町4261番

(3)パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社【守口】

  • 事業内容:テレビ・ビデオ・カメラなどのAV機器
  • 売上規模:4,626億円(2020年度実績)/従業員数:約1万1,000人(2022年4月)
  • 本社:守口市八雲東町1丁目10番12号

(4)パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社【門真】

  • 事業内容:住宅設備・建材
  • 売上規模:4,298億円(2020年度実績)/従業員数:1万47人(2021年3月)
  • 本社:門真市大字門真1048番地

(5)パナソニック コネクト株式会社【東京・銀座(汐留)】

  • 事業内容:B2B(事業者向け)ソリューション、パソコン「レッツノート」
  • 売上規模:8,182億円(2020年度)/従業員数:約2万8,500人(2022年3月)
  • 本社:東京都中央区銀座8丁目21番1号 住友不動産汐留浜離宮ビル(本店:福岡市博多区美野島4丁目1番62号)

(6)パナソニック インダストリー株式会社【門真】

  • 事業内容:電子部品、制御機器など産業用部品
  • 売上規模:1.1兆円(2021年度見通し)/従業員数:約4万4,000人(2022年4月)
  • 本社:門真市大字門真1006番地

(7)パナソニック エナジー株式会社【守口】

  • 事業内容:電池(乾電池、リチウム一次電池など)
  • 売上規模:7,644億円(2021年度)/従業員数:約2万人(2022年4月)
  • 本社:守口市松下町1番1号

(8)パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社【門真】

  • 事業内容:人事や経理・財務、調達、情報システムなど間接部門の専門人材会社(事業会社向け)
  • 売上規模:不明/従業員数:不明
  • 本社:門真市大字門真1006番地

以上です。

8つの事業会社のうち「門真エリア(守口市域含む)」に本社を置いているのは5社となっています。

西三荘駅に近い「西門真地区」の案内板だけでも多くの社名が表示されている

数的には門真エリアに本社を置く企業が多いのですが、首都圏に本社を置く3社は、グループでもっとも大きな売上を持つ「(1)家電のパナソニック」や、売上が1兆円を超える車載関連(自動車業界向け)の「(2)オートモーティブシステムズ」、そして企業向けビジネスを展開する「(5)コネクト」と、いわばパナソニックの核ともいえる重要な事業領域を担う企業です。

3社の売上は合わせると約5.5兆円になり、パナソニックグループ全体売上の7割以上を占めています。

これらの企業も一部の事業部や研究・開発部門などを門真エリアには置いていますが、事業の中心は首都圏にあり、“門真企業”という呼ぶには無理があります。

また、上記の主要8社以外でも、一般消費者に知られる企業では、空気清浄機や扇風機などを担当する「パナソニック エコシステムズ」(愛知県春日井市)や、カーナビやカーAVの「パナソニック カーエレクトロニクス」(東京都品川区)も本社を門真には置いていません。

「“門真発想”はもう限界、すぐ東京へ」

日本マイクロソフトの元社長で、パナソニックに出戻ってからコネクト社の社長に就任した樋口泰行氏の発言は、現在のパナソニックにおける門真の位置付けを表す象徴的なものでした。

『門真』発想ではもう限界。すぐに東京に行くことを決めた」(2017年7月「産経WEST」報道)

部門の責任者としてパナソニックに呼び戻されてから即座に“コネクト部門”の東京移転を決断したのは、主に大手企業を対象とした事業を展開している事情もありますが、良くも悪くも“松下の歴史”を背負った門真では、新しいことはしづらい、といった趣旨の思いがあったと著書に記しています。

パナソニックを四半世紀にわたって離れ、マイクロソフトなど外資企業の日本法人や、厳しい再建状態にあったダイエーでの経営者をつとめた経験を経てきた樋口氏から見ると、25年の時が流れてもまったく変わっていなかった門真本社の様子に驚かされ、強い危機感を抱いたようです。

門真市駅前に位置する「北門真地区」にはパナソニックコネクトも一部の事業部を置いているが、本社は東京にある

松下幸之助という伝説的な創業者が率いていた時代から“中央集権”を好まない企業グループだったため、本社の場所に大きなこだわりを持つことが少ないようにも見えますし、もし門真が“負の象徴”と見られるようになっているようならば、今後もグループ会社の「脱門真」が進む可能性は十分にあるでしょう。

一方、2020年春以降に始まった新型コロナウイルス禍を契機に、日本マイクロソフト時代の樋口氏も古くから日本で先導してきた「テレワーク(在宅勤務)」が浸透し、“オフィスはどこでも良い”という意識も広がりつつあります。

働く場所は東京でも門真でもどこでも良い、となった時に「門真へぜひ行きたい」と選んでもらえるような環境にできるのか。

パナソニックグループの経営層が門真エリアをどう位置付けるのかにもよりますが、優良な人材に選んでもらえるようにするためには、良き居住環境を提供する門真市のまちづくりも大切になってくるはずです。

(2022年6月4日時点の内容です)